2020年は戦後75年の節目の年で、平和への誓いを新たにする人も多かったことでしょう。沖縄戦の際には、海に浮かんだ戦艦からの艦砲射撃や航空機からの爆撃、地上での戦車などによる攻撃にさらされ、地形すら変わるというほどのいわゆる鉄の暴風が吹き荒れました。沖縄では約20万人が亡くなり、県民の4人にひとりが犠牲になったといわれます。
沖縄戦の負の影響は、終戦から75年たった現在も続いており、米軍基地をめぐる問題はその最たるものといっていいでしょう。
あまり話題にはなりませんが、基地問題はお墓に関しても、いまだに影を落としています。今回は米軍基地にまつわるお墓の問題について考えてみたいと思います。
強制接収された軍用地にはお墓も
米軍基地をめぐるお墓の問題というのは、いまだに基地内にお墓があるということです。
沖縄戦時に、多くの住民は収容所に収用されていました。その間に米軍は広大な土地を軍用地として接収していました。もちろん土地の所有者に許可を得ることなどなく、補償金や地代を払うこともなく、私有地を勝手に没収して基地として利用し始めたのです。
さらに1950年に勃発した朝鮮戦争によって、沖縄の米軍基地の役割がさらに重要になり、米軍側は恒久的な基地の建設を始めました。そのために、新たな土地の接収が強制的に行われたのです。これらのなかには、当然墓地も含まれていました。
普天間基地の誘導灯の脇に立派な亀甲墓が存在します。大変アンバランスで違和感のある風景ですね。
オスプレイが最終進入する脇に亀甲墓が
2010年の宜野湾市の調査報告によると、普天間基地内に500筆あまりの墓地があるそうです。これで、米軍基地として強制的に取り上げられた土地のなかには、現在もお墓が存在することがはっきりわかります。
たとえば普天間基地の滑走路の南側誘導路の脇には、沖縄伝統の亀甲墓が見られます。オスプレイなどが着陸するそのそばにお墓があるという、基地とお墓問題の象徴的な光景が見られるわけです。
2012年8月から3年間、在沖アメリカ総領事を務めたアルフレッド・マグルビーさんという人は就任会見で「なぜ基地の周辺に住宅が密集しているのか不思議だ」と発言して県民の怒りを買いました。この発言の裏には、まず基地があって、そのまわりに勝手に住宅が建てられたという根本的な考え違いがあります。
その論法でいくなら、普天間基地内の亀甲墓は基地ができた後に建立されたことになります。明らかにおかしな話ですね。
普天間基地内には500筆以上の墓地があるそうで、基地の中に墓地があるというより、墓地の中に基地があるといいたくなります。
基地内でお墓参りができるのか
では、基地内にあるお墓にお参りすることはできるのでしょうか。結論からいうと、できます。ただし、米軍の許可が必要です。
自分のご先祖様のお墓参りをするのに、許可が必要というのも変な話ですね。たとえば沖縄市の人なら立ち入り許可の申請書に身分証明書、さらに車で入る場合は車検証や自賠責保険証まで要求されます。これらを沖縄市役所に提出する必要があるそうです。
しかも、米軍の意向によっては許可が下りないこともあり得ます。また、基地によっては休日や祝日には入れないケースもあります。自分のご先祖様のお墓に自由にお参りできない。ここは本当にニッポンなのか、という気になりますね。
年に一回いっせいにお墓参り
たとえば普天間基地の場合、お墓参りができるのは年に一回だそうです。シーミーに合わせてあらかじめ米軍に申請し、許可が出た数百人がいっせいに基地内に入り、お墓でウートートーします。その頭の上をオスプレイなどが離着陸していくわけです。
また、嘉手納基地では立ち入りできるのはほぼ金曜日に限られます(2019年の場合)。また、時間は午前9時から午後4時の間の2時間のみ。さらに、安全上の理由で線香に火をつけることはできず、火のついていない線香を墓前に置くことしかできません。
根本的な解決策は基地の返還
この状態を放置しておくと不自由なお墓参りを続けることになります。それがイヤなら、お墓を移転するしかありません。しかし、そのためには基地外に新しいお墓を購入する必要があり、その費用の補償などがあるのかが問題になるでしょう。
そもそも、自分の土地を強制的に取り上げられた上に、そこに建っているお墓を移さなくてはならないというのは、納得できる話ではありません。
もちろん根本的な解決法は、基地が返還されることです。しかし、それがいつになるかはわかりません。普天間基地の返還は1996年4月に日米で合意されましたが、それから24年経つ現在でも実現されていないのは、ご承知の通りです。
まとめ
自分のご先祖様が眠るお墓に自由にお参りできない。許可を得てなんとかお墓に着いても線香を上げることすらできない。こんなところは世界中のどこを探しても沖縄しかないはずです。ご先祖様もあの世で胸を痛めているはずです。なんとかならないものでしょうか。