「日本とアメリカにおける『おくりびと』の仕事」~納棺師とエンバーマーのお話~

今から66年前の1954年、北海道地方に接近した台風15号の暴風と波浪によって青函連絡船「洞爺丸」が津軽海峡で沈没。乗員乗客合わせて1,337人のうち1,155人が亡くなりました。

この大事故をきっかけに、葬儀の世界に新しい仕事が生まれました。それが納棺師です。

今回は沖縄でも活躍する人が出始めている納棺師と、それに近い存在であるアメリカのエンバーマーについて見てみます。

地元の人々が遺体の引き渡しを手伝ったのがきっかけ

洞爺丸事故の際、函館市の海岸に多数の遺体が流れ着きました。あまりに数が多すぎて、葬儀業者だけで対応することができません。そこで、地元の人たちが葬儀会社の依頼により、遺体を遺族へ引き渡す仕事を手伝いました。これが納棺師という職業が確立するきっかけになったとされます。

納棺師といえば「おくりびと」という映画がヒットしたことで一時脚光を浴びました。本木雅弘さん主演のこの映画は、アカデミー賞外国語映画賞も受賞したほど高い評価を得ました。「おくりびと」が公開されたが2008年なので、洞爺丸事故から半世紀あまりを経て、納棺師の存在が本格的に社会に知られるようになったといえます。

納棺師の仕事内容

納棺師は、「湯灌師(ゆかんし)」や「復元納棺師」と呼ばれることもありますが、いずれも同じと考えていいでしょう。これらは映画にちなんで全般的に「おくりびと」と呼ばれることもあるようです。

仕事の内容としては、文字通り「遺体を棺に納めること」です。ただし、それ以前に多くのやるべきことがあります。

たとえば、遺体を洗浄し、防腐液を使うなどして腐敗をおさえます。さらに、むくみを取ったり、逆に痩せた顔をふっくらさせたり、場合によっては体液を抜いたりすることもあるそうです。

また、事故で亡くなった場合には顔をはじめ、遺体が損傷しているケースがあります。そのままでは見た遺族が大きなショックを受け、ひどい場合には心の傷を負いかねません。そうした傷ついた遺体の修正も大事な役割となります。

さらに、遺体に化粧を施します。「ラストメイク」ともいいますが、伝統的には「死化粧」と呼ばれ、地域によっては遺族の手で行われることもあったといいます。苦しんだり、傷ついたりした顔は遺族に大きな悲しみを与えますが、安らかな死に顔は逆に安心感を与えます。ラストメイクは死者を旅立たせるための最終的な仕事といえます。

ちなみに納棺師は、葬儀会社に所属している場合もありますが、葬儀会社とは別の会社に属していたり、あるいは個人事業主またはフリーランスとして、葬儀会社からの下請け業務を行っているケースもあります。

納棺師に近いアメリカのエンバーマー

ところで、納棺師に近い職業の人がアメリカにもいます。この仕事をエンバーミング(遺体保存術)といい、それを職業とする人をエンバーマーといいます。

エンバーミングが生まれたきっかけは、1861年から1865年にかけて行われたアメリカの内戦、南北戦争でした。この戦争で戦死した兵士たちを故郷へ運ぶために発達した技術です。遺体を遠く離れた故郷に運んで埋葬したいのに、運搬に時間がかかるので、その間に腐敗してしまいます。だからといってキリスト教の規範に反する火葬はしたくないというわけで、エンバーミングの技術が発達したのです。

エンバーミングを教える大学もある

その後、一般の人々も遺体にエンバーミングを施してもらうようになりました。土葬を基本とするアメリカでは需要があります。そうしたニーズを背景にエンバーマーは遺体の消毒、防腐、復元、化粧まで含めた高度な技術を習得し、ビジネス基盤を確立していきました。

ちなみに、南北戦争終結からほんの17年ほど後にはエンバーミングの学校も創立されました。それが現在もオハイオ州にあるシンシナティ葬儀科学大学です。

時代が移り変わり、交通機関が発達して、遺体の搬送にそれほど時間がかからなくなっても、エンバーミングは生き残りました。アメリカでは、成人した子供が親と同居する習慣があまりなく、離ればなれに暮らすのが普通です。すると葬儀のときには大陸を端から端まで移動することもあり、関係者が集まるのに時間がかかります。それを見越して葬儀の日取りを決めれば、数日間は遺体を保存しなくてはなりません。そのために、今もエンバーミングが必要とされているのです。

まとめ

納棺師とエンバーマーは同じような仕事をしています。しかし、その目的にはやや違いがあるようです。

というのも、死者は復活するというカトリックの教義もあるので、エンバーミングで遺体を修復し、保存するという考え方があるのです。

一方、火葬率が99.9%とされる日本では、亡くなってから数日以内には火葬に付されます。そのため、アメリカのように遺体を長期保存する意味がありません。したがって納棺師の究極の役割は「故人と安らかにお別れをしていただくこと」になるのでしょう。

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