以前このコーナーでネット上に存在する仮想現実(VR)のお墓について、少し触れたことがありました。
もともと20世紀の終わりごろにアメリカで誕生したサービスですが、コロナ禍の影響もあるのか、このところさらに広がりを見せていて、日本国内でもその賛否について議論が起こっているようです。
そこで、こうした、いわばネット墓についてあらためて考えてみました。
目次
物的な「寄す処 (か) 」よすがは載せられない
ネット墓はVRなので、墓石はもちろん、遺骨も遺灰も存在しません。遺骨にこだわる日本人から見ると、故人をしのぶ物的なよすがは、ないといっていいでしょう。
石やコンクリートなどでできた、いわばリアル墓に慣れてきた私たちにとって、ネット墓は大変不思議な存在です。年に1~2回お墓を訪れてお参りしたり、墓前で宴会をしてきたことを考えると、実在しないお墓が、果たしてお墓といえるのかどうかすら疑問です。
※よすが意味
1 身や心のよりどころとすること。頼りとすること。また、身寄り。血縁者。よるべ。
遺影や声を載せることはできる
ただ、故人をしのぶ物的よすがはないと書きましたが、最低限のアイテムは納めることができるようです。
たとえば故人の写真。お参りの際には、画面に遺影を出すことが可能です。また、故人の声を登録し、お話や歌などとして聞けるサービスもあるそうです。故人のお顔の写真を見て、声を聴きながら手を合わせることができるのは良い点ですね。
もちろん、故人のお名前や戒名、生年月日や亡くなった日、年齢などのデータも載せることができます。
さらに進んだオプションも
最近は、さらに充実したオプションも用意されているようです。まず、写真アルバム。遺影だけでなく、故人が写った写真を複数枚載せて、アルバムとして見ることができるようにしたものです。
また、動画も掲載できます。故人の生前の姿を映像で見ることができるわけですから、遺族にとってはありがたいサービスといえます。リアル墓へのお参りではほとんどできないことですから。
さらにデジタルの特性を生かして、家系図や文章などのメッセージ、自分史などのデータを載せることもできます。
ある利用者は、急死した夫のお墓をネット上に設けたそうです。幼い子どもも父親が急に亡くなったことで大きなショックを受けていましたが、ネット上で父親の写真や動画を見ることで、悲しみも癒されているといいます。こうしたことも、リアル墓にはないネット墓の特性といえますね。
公開・非公開・招待者限定公開などを選ぶこともできます。公開にすると、だれでもサイトを訪れることができるようになりますし、非公開にすれば管理者だけが訪れることができます。
無縁墓化の心配がなく子や孫の負担も少ない
そう考えると、なんらかの事情で、お墓を建てたくても建てられない人や、建てても無縁墓化が目に見えているなどというケースはネット墓もありかも知れません。
また、墓地不足が深刻化している現状では問題の好転に役立つ可能性はあるといえます。
さらに、リアル墓のような管理も必要ないので、子や孫の負担を少なくすることもできます。
両墓制としてネット墓を活用する考え方も
ところで、このコーナーでは、以前両墓制について取り上げたことがあります。
これは亡くなった人ひとりについて、お墓をふたつ造るもので、江戸時代に近畿地方などでよく行われた風習で、現在でも長野県や奈良県等で見られます。
両墓制では、集落と離れたところに遺体を埋葬します。これは、遺体から発生する臭気や伝染病を避けるためです。さらに、集落の近くに別のお墓を造り、お参りはこちらで行います。
埋葬用とお参り用、両方のお墓を造るのが両墓制というわけです。これをネット墓に応用することも可能なのです。
リアル墓とネット墓のふたつを設ける手もある
つまり、遺骨を納めたリアル墓とともにネット墓も設けるという活用法が考えられます。
リアル墓には遺骨が納められているので、もちろんお参りに訪れることができます。しかし、住まいから遠い、仕事が忙しい、体力がない、さらに今回のコロナ禍のような特別な事情でなかなかお墓参りに行けないことも考えられます。
そこで、ネット墓も設けます。そうすれば、いつでもどこでもお参りができるというわけです。
しかも、ネット墓には遺影はもちろん、写真アルバムや動画も載っているとなれば、故人への思いも強くなり、より供養になると考えられます。
まとめ
ネット上にお墓を開設するサービスが登場して利用者が増えています。昨今のコロナ禍でお墓参りもままならないことも影響しているかもしれません。
もちろん遺骨を納めることはできませんが、代わりに故人の写真アルバムや動画、メッセージなどを載せることができます。
リアル墓と併設することができ、いつでもどこにいてもネット環境さえあればお参りすることができます。