「門中墓の門中って、そもそもなに?」~その成り立ちについての話①~

以前、沖縄でもっとも大きなお墓として、糸満市にある幸地腹・赤比儀腹両門中墓(こうちばら・あかひぎばらりょうむんちゅうばか)を紹介しました。

名称からもわかるように、これは門中墓と呼ばれるタイプです。

ということは、門中という集団が所有・管理しているわけです。ちなみに幸地腹門中のメンバーは3000~4000人ほどいるといわれ、ひとつの村くらいの人数になって、法人化もされているそうです。

しかし、これだけの集団、門中とはそもそもどんなもので、どうやってできたのか。今回はそのあたりをひもといてみたいと思います。

父方の先祖が同一であることがメンバーの条件

以前にも少し紹介しましたが、門中とは沖縄における始祖を同じくする父系の血縁集団のこととされています。

条件に合えば、たとえばキリスト教徒などであってもメンバーになれます。宗教とは関係ないのです。ちなみに構成する家は、年間5000円くらいを出し合い、お墓の維持費とします。

門中のような集団は中国、朝鮮半島、ベトナムなどでも見られます。なので、中国あたりから入ってきたシステムとも考えられます。

王府が士族に家系図を出させたことがきっかけ

門中の始まりは、1689年に琉球王府が士族に対して「家譜」か「系図」を出せと命令したことです。今でいえば家系図のようなものと思われ、つまり先祖代々の系図が記された文書でしょう。

そして、それを提出できる家を士族、できない家を百姓としました。今考えれば少し乱暴な話のようですが、家格証明書として家譜などが必要とされたのでしょう。

それまでも、士族と百姓の区別はありましたが、境界が判然としていなかったり、家格があいまいだったりする家もあったのでしょう。

どこの馬の骨とも知れない者が士族を自称することがあったかも知れず、そうした者を排除するために王府が家譜を出せと命じたのかも知れません。さらにこの施策によって、支配体制を強化することも王府の目的だったようです。

多少乱暴にしても、王府の命令で家譜が提出されたことによって、士族という身分が明確になり、それとともに門中が形成されていくようになりました。

先祖崇拝発達の元にもなった

このようにして門中は成立し、王府の支配体制の中に組み込まれていきますが、もうひとつ大きな役割を果たします。それは先祖崇拝の発達に寄与したことです。

門中においては先祖が同じなのですから、集団として結束し、先祖崇拝を強化していくことになったのは自然な流れと思われます。したがって、現在の沖縄において宗教とすらいえるほどの先祖崇拝の習慣は、門中の成立と発展によって作られたものともいえます。

士族の門中は名前でわかる

士族における門中は、同じ家譜を持つ仲間の集まりともいえます。その表れのひとつとして名前があります。

沖縄の士族は基本的に3つの名前を持っていました。中国名(カラナー)、大和名(ヤマトナー)、童名(ワラビナー)です。

たとえば17世紀中ごろに摂政として数々の政治改革を行った羽地朝秀(はねじ ちょうしゅう)という人がいました。彼は向象賢(しょう・しょうけん)という中国名を持っており、大和名が羽地朝秀、童名が思亀でした。

同じ門中に属する場合、中国名の名字と、大和名の名前の最初の一文字が共通というパターンが一般的でした。羽地朝秀の場合「向」と「朝」がその印で、これが同じであれば同一の門中に属する仲間であることがわかります。ちなみに、この場合の「朝」を名乗り頭とも呼びます。

具志堅用高さんは由緒正しい家系

現在の沖縄の一般人は中国名を持ちませんが、名字と名乗り頭が共通の場合、同じ門中に属する可能性があります。

例として允氏具志堅家(いんうじぐしけんけ)という琉球王国時代の士族を見てみましょう。この士族は、允顕徳・具志堅親雲上用易という人を元祖とします。用易は琉球王国第二尚氏王統第7代尚寧王の子という話もあります。この人の場合、名字は「具志堅」、名乗り頭が「用」ということになります。

したがって、ボクシング元世界チャンピオンの具志堅用高さんの出自は允氏具志堅家ということがわかります。

余談ですが、具志堅さんはインタビューで「自分の名前は女みたいでイヤだ」といったことがあるそうです。「ヨーコー」が「ようこ」みたいだというのが理由だったようですが、実際にはとんでもなく由緒正しい家格であることを、名前が証明していることになります。

まとめ

門中は、1689年に琉球王府が士族に対して家譜を出せと命じたことをきっかけにできるようになりました。

先祖を同じくする集団であることから、先祖崇拝習慣が広がる元にもなりました。

名字や名前の初めの字によって、どこの門中に属するかを知ることができる場合もあります。

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