孔子廟の土地使用料免除は違憲 政教分離訴訟で最高裁
先日、那覇市にある孔子廟を巡る裁判の話が新聞などをにぎわせていました。それによると、最高裁判所での憲法判断にまで至るという、大きな問題になっているそうです。
孔子は、いうまでもなく儒教の開祖としてあまりにも有名な人です。儒教は、このコーナーで何度も紹介しているように、沖縄における先祖崇拝の思想やお葬式、お墓、さらにトートーメーやシーミーなどとも深い関係を持っています。そのため、孔子廟の問題には興味を引かれました。
そこで、那覇の孔子廟が、なぜ最高裁まで行くほど問題になっているのかについて調べてみましたので、今回はそれを紹介してみます。
孔子廟の敷地に入ると、正面に大成殿という建物が赤い美しい姿を見せます。内部には孔子のほか高弟の顔子、曾子、子思子、孟子が祀られています。
先日、那覇市にある孔子廟を巡る裁判の話が新聞などをにぎわせていました。それによると、最高裁判所での憲法判断にまで至るという、大きな問題になっているそうです。
孔子は、いうまでもなく儒教の開祖としてあまりにも有名な人です。儒教は、このコーナーで何度も紹介しているように、沖縄における先祖崇拝の思想やお葬式、お墓、さらにトートーメーやシーミーなどとも深い関係を持っています。そのため、孔子廟の問題には興味を引かれました。
そこで、那覇の孔子廟が、なぜ最高裁まで行くほど問題になっているのかについて調べてみましたので、今回はそれを紹介してみます。
廟は仏教でいう仏壇のようなもの
孔子は紀元前551年に中国で生まれた思想家・哲学家で、釈迦、キリスト、ソクラテスとともに世界の四聖人と呼ばれています。
彼が開いた儒教は、中国の国教にもなりました。また、その言動を弟子が記録した書物「論語」はあまりにも有名で、現代でも座右の銘にして活用する人が多くいます。
その孔子を祀るのが孔子廟です。孔子のお墓は中国山東省にあり、廟は仏教における仏壇のような存在です。
孔子廟は、中国はもちろん台湾、朝鮮半島、ベトナム、マレーシアにもあります。日本にも東京、長崎、栃木、岡山、佐賀などにあります。那覇にあるのは「久米至聖廟」と呼ばれ、日本最南端の孔子廟となっています。
場所は福州園の隣。正門の扉は閉じていますが、脇のくぐり戸というか通用口が開いているので自由に入ることができます。
琉球に渡ってきた中国人が創建
なぜ那覇に孔子廟があるのかというと、久米三十六姓と呼ばれる人たちと深い関わりがあります。
久米三十六姓は、14世紀の終わりごろから約300年に渡って中国から渡来した人々のことで、主に琉球王国の対中国外交で活躍したほか、琉球の文化や学問の発展にも大きく貢献しました。現在のウチナーンチュの生活様式にも影響を与えています。
この久米三十六姓ゆかりの人々が1676年に創建したのが久米至聖廟というわけです。
その後、久米至聖廟は沖縄戦時に焼失します。復興へ向けた動きがありましたが、もともと建っていた地は米軍が軍道1号線(現在の国道58号線)を通すことになったので、そこでの再建はかないませんでした。
そこで、若狭に用地を手当てし、そちらへ移転の上で再建されます。それでもゆかりの人々は、先祖が創建した久米の地にこだわり、2014年に那覇市の協力を得て現在の場所に建立されました。
大成殿の中は華麗かつ荘厳な雰囲気。正面奥には孔子の像が納まっています。
土地は那覇市がタダで提供している
問題になっているのは、現在、久米至聖廟が建っている土地は那覇市の所有で、それが久米三十六姓の子孫である管理者に無償で提供されている点です。
久米至聖廟には孔子を祀る大成殿や戦前の学校などがあり、体験学習施設として届けられたため、那覇市は条例に基づいて、土地使用料の月額47万円を全額免除することにしました。
しかし、市民運動家の女性が「タダで貸すのは違法である」として裁判所に訴えたのです。中国に対する反発も背景にあるようです。
タダ貸しは憲法違反か?
要点は、久米至聖廟が宗教施設であるかどうかです。日本国憲法には「政教分離の原則」というのがあり、国や自治体は宗教に関して中立でなくてはならず、特定の宗教に肩入れしてはいけません。
さらにいえば、公共の財産を宗教団体のために使うことが禁じられており、久米至聖廟の建つ土地について賃料を取るならまだしも、それを免除するのは憲法違反であるというのが訴えの根拠なのです。
差し戻し審も二審も憲法違反判決で最高裁へ
一審では、無償提供の是非の前に、原告(訴えた女性)の監査請求が適法ではないという理由で、原告側敗訴となりました。
そこで原告側が控訴し、二審は一審の判決を取り消し、那覇地裁に差し戻しとなりました。一審をやり直すことになったのです。
そして差し戻し審では、久米至聖廟が宗教施設かどうかが争点となりました。やっと本質的な審理が行われることになり、判決では一部宗教施設と認められ、那覇市が土地の使用料を徴収しないのは違法とされました。
これを受けて、今度は那覇市側が控訴し、福岡高裁那覇支部で控訴審が開かれました。そして、2019年の判決は憲法違反としました。ただ、ならば使用料をいくら徴収するかを示さなかったため、女性側および那覇市側の双方が最高裁に上告したというわけです。
そして、2021年1月、最高裁は同年2月24日に判決を言い渡されました。
まとめ
日本最南端の孔子廟、久米至聖廟は、那覇市から土地の無償提供を受けて建立されました。
自治体が宗教施設にタダで土地を提供することは違法ではないかと、訴訟問題になっています。差し戻しの一審および二審では違法性が認められ、上告によって裁判のステージは最高裁にまで至っています。
最大の争点は、久米至聖廟が宗教施設かどうかです。宗教施設と認められれば、憲法に違反するという判断も予想されます。
儒教については宗教であるとか、いや道徳であるとか、いや思想であるとか、さまざまな受け止め方がありますが、孔子廟が宗教施設であるということになれば、儒教の位置付けにも影響を与えるかも知れません。