「お墓の引っ越しを考える」~無縁墓が増えやすい沖縄の特性と公営墓地②~

戦後の米軍による土地の強制接収や、北部・離島などからの移住者の増加を背景に、お墓の引っ越しや新築が必要となり、それによって公営墓地として那覇市の識名霊園が設置されたことを前回の記事で紹介しました。

また、公営墓地が、結果的に無縁墓の増加をある程度防いだ面もあると思われます。

公営墓地ができた背景には、土地の強制接収以外にも、米軍が大きく関わっています。今回はそのあたりも紹介してみましょう。

米軍の命令から識名霊園が造られた

そもそも、識名霊園の設置は、那覇市の辻や若狭にあったお墓の撤去を米軍から命じられたことが始まりでした。

米軍は、泊港岸壁の埋立てのために必要な土砂を辻や若狭地域の丘陵地を削って確保しようとしたのです。しかし、そこには墓地がありました。そこで米軍はお墓を撤去するように命じたのです。

ところが、当然のことながら、那覇市は墓地の所有者に対し、移転先を用意しなくてはなりませんでした。それが、識名霊園だったのです。

それでも合理的で近代的な霊園

米軍の「墓をどけろ」という命令など、人権への配慮も死者への敬意もありません。とんでもない話ですね。ところが皮肉なことに、これが沖縄における墓制の改革につながります。

というのも、それまで辻や若狭のお墓は住宅地にあり、いわば「住民が死者と同居している」状態でもありました。さらに、都市開発の妨げにもなっていました。

そのため、静かな場所にあり、美しい花々や木々に囲まれ、死者はやすらかに眠り、生きている者は散歩も楽しめるようなところ、という発想で霊園の構想が生まれたわけです。

以前このコーナーで紹介した粟国島は、まさにこの通りになっています。粟国島ではお墓が集まる地域を「あの世」と称して、人が住む地域と厳密に分けられています。「あの世」では海に面した斜面にお墓が造られており、東シナ海のすばらしい風景が眼前に広がり、散歩していても楽しめます。

また、東京にも都心に都立の青山霊園があるほか、郊外の府中市や小金井市には同じく都立の多磨霊園があります。

このように、お墓を集める霊園の考え方は合理的かつ近代的な発想だったといえるかもしれません。

背景にはやはり米軍があった

もうひとつ、米軍がお墓の引っ越しや新築をうながしたのは「軍工事ブーム」です。

1950年代前半は、新しい基地の建設が盛んになり、ウチナーンチュの多くが工事に従事し、多額の収入を得ます。この時期、沖縄は好景気にわいたのです。

さらに50年代後半になると「軍用地ブーム」も起こります。

1954年、米軍は強制接収した軍用地について、借地料にあたる軍用地料の16年分を一括前払いすると発表します。これはきわめて安い、不当な金額でした。そのため、これに反発した県民が怒り、それがいわゆる「島ぐるみ闘争」に発展していきます。

これは経て、米軍側は次第に軍用地料を値上げしていき、それによって軍用地主のふところが豊かになります。

このように基地工事による収入や軍用地料によって、ウチナーンチュの一部は経済的に潤うようになります。これがお墓の引っ越しや新築の費用にあてられます。

公営墓地は各地にできたけれど・・・

米軍基地に関連する社会状況も背景にしながら、識名霊園は生まれました。これを契機にして、他の地域でも公営墓地設置の動きが本格化します。

その後、市としては浦添、宜野湾、沖縄、うるま、名護、町では嘉手納、金武、村では恩納、伊江などで公営墓地ができています。

しかし、これらの公営墓地は現在、特に都市部においてはほとんど満杯となり、新規のお墓造営にはほとんど対応できない状態になっています。

ちなみに那覇市の識名霊園には納骨堂や合葬式墓地をそなえた市民共同墓があります。この合葬式墓地は、ひとつのお墓にたくさんのお骨を納めて、那覇市が永年管理するものです。

浦添市にも公営墓地・浦添墓地公園ができました。

公営墓地が無縁墓を生む原因に?

沖縄では、お墓は「あの世の家」とされ、「生きている者は借家にも住めるが、亡くなった人は借墓に住むことはできない」といわれます。しかも、祖先を大切にしないと祟りがあると考えるのが一般的です。

そのため、できるだけ立派なお墓を建てようとします。しかし、公営墓地でそれに対応できないとなると、またあちらこちらに個人墓が建ち、何十年か先にはそれが無縁墓化することが予想されます。

実際のところ識名霊園で那覇市の管理下にあるお墓は724基です。ところがそのまわりに個人墓地が9000あまりもあります。したがってある意味、公営墓地が数多くの個人所有の墓地を引き寄せてしまい、それらが無縁墓化する可能性を有するという、本末転倒な結果になっているともいえます。

浦添墓地公園にも、納骨室と合葬室を備えた施設型共同墓が完成しました。

まとめ

米軍占領下にあった沖縄では、米軍の施策によってお墓も翻弄されました。引っ越し先として公営墓地も造られましたが、すでに満杯状態です。

そのため、また無縁墓が増えそうな状況ですから、引っ越しおよび改葬の検討も必要でしょう。

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