「ニービ墓は沖縄のお墓の原型?」~うるま市で見つけた不思議なお墓の話~

沖縄のお墓といえば亀甲墓(カーミヌクーバカ)や破風墓(ハフーバカ)がよく知られています。

亀甲墓は屋根の部分がまさに亀の甲羅のように緩やかな曲線を描く形状をしています。一説には女性の子宮をかたどっているともいわれ、死後にはそこに戻るという考え方もあるようです。

破風墓は三角屋根が特徴で、現在沖縄で作られるお墓の主流といってもいいタイプです。世界遺産になっている玉陵も破風墓で、琉球王朝時代には庶民は造ることが許されませんでした。

一方で、こうした「建物」のようなお墓ではなく、昔は垂直に切り立った崖に横穴を掘り、そこにお骨を納めるというお墓も一般的でした。代表的な例として浦添ようどれがあります。

さらに、最近見つけたのがニービ墓というタイプです。伝統的なお墓の一種と思われますが、普段はあまり見かけないので調べてみました。今回はニービ墓について紹介します。

ニービとはなにか

ニービとは、簡単にいうと岩石の種類です。沖縄本島中部から南部にかけては島尻層という地層が広く分布しています。島尻層を形成する岩石の中ではクチャがよく知られています。クチャは泥岩で、これを原料にしたシャンプーやフェイスパックも売られています。

一方、島尻層に含まれるもうひとつの代表的な岩石がニービです。ニービは砂岩で、触るとザラザラしていて、表面を削るとサラサラと落ちてきます。非常に柔らかい岩石といえます。

また、ニービは茶褐色をしていますが、専門家によると本来は鈍色(にびいろ)だそうで、この色が名称の語源だといわれます。

山の斜面に掘られたニービ墓

うるま市江洲近辺に、普段はあまり見かけない、不思議の形態の墓が見られます。これがニービ墓といわれています。

ニービ墓は崖の斜面に造られています。高さは5mくらい。幅は3~4mくらいでしょうか。威風堂々としたたたずまいです。

上部は木の枝や草が広がっていて、なかには神様が降りる依代(よりしろ)にもなるというヤシ科のマーニ(クロツグ)が寄り添うお墓もあります。このように、自然と一体になっているからでしょうか、御嶽にも通じるような神々しさを感じさせます。

山の斜面で緑に囲まれたニービ墓
山の斜面で緑に囲まれたニービ墓

骨は石材としても活用される

横にある墓標には「○○家之墓」と記されており、家墓であることがわかります。ちなみにこの墓標ですが、ニービヌフニ(ニービの骨)と呼ばれる石が使われているようです。

ニービは前述のように金属やプラスチックなどで削るとサラサラ崩れるほど柔らかい砂岩ですが、ときどきとても固い部分があります。これがニービヌフニで、石材としての利用価値が高く、建物の礎石や橋の欄干などにも利用されるそうです。首里城正殿前の彫刻の竜柱にもニービヌフニが使われています。

強度面では大丈夫?

しかし、ニービ墓の前に立ってみると、少し不安を感じます。お墓が怖いというのではなく、強度は大丈夫なのかということです。

ニービは岩石ですが、実態はほとんど土のかたまりといってもいいものです。その垂直の壁に横穴を掘り、墓室を造ったのがニービの墓です。沖縄で昔からあった琉球石灰岩の壁に横穴を掘った墓なら強度は十分なのでしょうが、ニービ墓は端的にいえば、土の壁に掘っているので、大雨などの際に崩れてしまわないかという心配が不安の元なのです。

実は旧海軍司令部壕もニービの丘に掘られている

ところでニービは那覇市の小禄地域にも広く見られ、豊見城市の旧海軍司令部壕もニービの丘陵に掘られているそうです。今は公園として一部が公開されていますが、全体としては450mもの長さがあるといいます。

この壕は、戦争末期の1944年に2ヵ月ほどの期間で造られたそうです。もちろんほとんどが手掘りでした。機械もないのに短期間で造ることができた背景には、人海戦術もあったのでしょうが、掘りやすかったという面もあったのかもしれません。

また、壕は掘られた後にコンクリートや杭で補強されています。これで頑丈になったため、造られてから75年以上経った現在でも崩落することなく保存されていると思われます。

つまり、ニービの墓は掘りやすいので造りやすく、見た目の印象よりも強度が高いと考えられます。しかも、コンクリートで補強すれば、半永久的とはいわないまでも、かなり長期間もつのでしょう。実際に、うるま市江洲近辺には、本来のニービ墓をコンクリートで補強したお墓も見られます。

本来のニービ墓(右)とコンクリートで補強されたと思われるニービ墓(左)
本来のニービ墓(右)とコンクリートで補強されたと思われるニービ墓(左)

まとめ

ただ、このあたりには一般的な破風墓も多く見られます。想像ですが、伝統的なニービ墓から現代風の墓に建て替えたものもあるかもしれません。

もうそうなら、ニービ墓→コンクリートで補強したニービ墓→破風墓というお墓のスタイルの変遷が見られるということになりますね。


ニービの地層と、その前にある比較的最近造られたと思われる現代風のお墓

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