引き取り手がいない無縁遺骨のほとんどは、身元が判明していて、徐々に数が増えている
お盆の帰省といえば墓参りだが、近年、遺骨になったあと引き取り手がなくお墓に入れない、いわゆる“無縁遺骨”になってしまうケースが全国で増加している。「親族や友人がいても、誰しもが無縁遺骨になってしまう可能性があります」と専門家。その実態と、自分の親族から無縁遺骨を出さない、自身がならない方法を紹介する。
引き取りを拒否されているケースのほうが圧倒的に多い
家族が亡くなれば納骨し、お盆にはお墓参りに行くという常識が崩れ始めている。
そもそもお墓に遺骨が納骨されず、市区町村が管理する納骨堂が預かったまま放置されてしまう可能性があるのだ。
「さまざまな理由で引き取り手がなく、納骨されない遺骨を『無縁遺骨』といいます。たとえ親族などが見つかったとしても、受け取りを拒否されてしまうとその場合も『無縁遺骨』となります」
そう話すのは、終活に詳しいシニア生活文化研究所所長の小谷みどりさん。
「誤解されがちなのは、無縁遺骨とは身元が不明な遺骨ばかりではないということ。身元が判明しているのに、引き取りを拒否されているケースのほうが圧倒的に多いのです」(小谷さん、以下同)
総務省は、2021年10月末時点で約6万柱もの無縁遺骨があると発表した。この6万柱のうち、9割にあたる約5万4千柱は、身元が判明しているにもかかわらず、無縁遺骨になってしまったのだ。
「無縁遺骨が増加した理由の一つは、地域のつながりが薄れ、世間体をそこまで気にしなくなったこと。
以前は、身寄りのない親戚が亡くなり“あなたが遺骨の引き取り人になりました”と市区町村から連絡がきたら、なんとなく周囲の目を気にして引き取る人が多かった。
けれど、地域の付き合いも希薄となったいま、気にしない人がほとんど。周りの目よりも手間や費用を考えて拒否するのです」
費用の問題だけではなく、親戚同士の縁が薄れたことで、遺骨を受け取る必要がないと考える人も。
「祖父母ですら、一緒に暮らしたことがないし、正月やお盆の帰省の機会も減っているので“血縁者とは思えない”“家族じゃない”と言い、受け取りを拒否する親族もいます。
孫ですらそうなのですから、もっと遠い親戚の人が亡くなっても、その後の面倒をみる気にならないのです」
ほかには、平均寿命が延びた影響もある。子どもが70代、親が90代の親子共に高齢者というケースも珍しくなく、年金暮らしで親の納骨費用が捻出できなかったり、子どもがすでに認知症で対応できないという場合も。
ただ、市区町村でも保管する場所は限られているため、パンク状態になっているのだ。
遺族が遺骨を引き取ってくれたとしても、お墓の場所がわからず無縁遺骨になることもある。そういった状況に陥りやすいのは、家族で最後に亡くなった人だという。
手軽にできるのはエンディングノートを残すこと
「例えば、夫婦でお墓を用意していたのに、夫に先立たれ残された妻が亡くなったあと無縁遺骨になるケースです。生前用意したお墓の場所を誰にも伝えていなかったため、夫と同じ墓に入れずに納骨堂行きに。
ひとり暮らしの高齢者が亡くなると、市区町村が葬儀を行い一時的に遺骨を保管はしてくれますが、一定の手続きをしておかないと納骨まではしてくれません」
昔は、親族で墓所がまとまっていたり、お盆にお墓参りに行ったりすることが普通だったが、核家族化が進み、離れて暮らす人がほとんど。お墓の話題が出ることも少なく、“親戚であっても墓の場所を知らない”人も多いという。
「残された親族に引き取る意思があっても、結局自治体が預かることに……という場合もかなりあります。私が聞いた実例では、ある自治体に、骨壺をかかえた50代の男女が『伯母の遺骨を引き取ってほしい』と相談に来たケース。一度引き取った遺骨を持ち込んだ理由は、お墓の場所がわからなかったからでした」
故人である伯母さんには先に亡くなった夫がいたが、その遺骨は自宅に残っていなかった。どこかに夫婦のお墓があるはずだが、親族の誰ひとりその場所を知らなかったために無縁遺骨となったのだ。
では、自分や配偶者が無縁遺骨にならないためには、具体的にどうすればよいのか。
「いちばん手軽にできるのは、エンディングノートを残すこと。エンディングノートは自分の死後、残された家族が困らないよう、資産や財産、スマホのパスワードにいたるまで必要な情報を書き出すものです。そこに生前準備しておいたお墓の場所を書いておけば、無縁遺骨になる可能性をぐっと下げられます」
ほかには、公共サービスを利用する手も。
「神奈川県横須賀市や愛知県名古屋市では、25万円前後を支払って、自分の死後の火葬・納骨や公共料金の解約などを行ってくれます。ただ、市によっては、『預貯金額が一定額以下』など利用条件が厳しい場合も。費用はかかりますが、民間企業の終活支援を利用する人も多いです」
自分が住んでいる地域ではどういった終活支援が受けられるか確認するのが大切だ。
また、親族から無縁遺骨を出さないためにできることは、兄弟や親戚同士でお墓はどうするかなどの情報を共有することに尽きる。
ただ、前述のとおり死後のことは家族や親族が担うというこれまでの認識は薄れてきているので、まずは自分の死後のことを考えてほしいと小谷さん。
「自分の意思を元気なうちに表明しておくこと、それを死後に代弁してくれる人や組織を見つけておくことが大切です。それは、友人はもちろん自治体、NPOなど。頼れそうなところをチェックし、早めの対策を」
取材・文/オフィス三銃士
小谷みどりさん シニア生活文化研究所所長のほか、淑徳大学、奈良女子大学などで教壇に立つ。博士(人間科学)。専門は死生学。著書に『ひとり終活』(小学館新書)、『〈ひとり死〉時代のお葬式とお墓』(岩波新書)など。
https://www.jprime.jp/articles/-/28810?page=2
より記事を転用させて頂きました。