認知症になるかどうか最後の分かれ道「軽度認知障害(MCI)」についてご存じでしょうか
浦上 克哉 : 日本認知症予防学会理事長・鳥取大学医学部 認知症予防学講座教授
著者フォロー 2023/02/17 11:30
認知症になるかどうかの「最後の分かれ道」
昨今、日本における「認知症」への関心が急速に高まっています。厚生労働省によれば、2020年時点での高齢者(65歳以上)の認知症の人は約600万人と推計され、2025年には約700万人に達すると予想されています。これは高齢者の約5人に1人という割合です。このような時代に、認知症という病気を知らない人はいないでしょう。
では、「軽度認知障害」という言葉を聞いたことがあるでしょうか? おそらく、多くの人は「聞いたことがない」と答えると思います。
軽度認知障害とは、認知症になる直前、認知機能が低下しつつあるけれども、日常生活には大きな支障がない「非認知症」の段階を示す言葉です。英語では、「Mild Cognitive Impairment」と表記されるため、この頭文字をとった「MCI」と呼ばれることが日本でも多くあります。
MCIの次の段階は、当然のことながら認知症で、認知症になってからは、「軽度認知症」「中等度認知症」「重度認知症」の3段階に分けられます。MCIから軽度認知症へと移行する割合は、1年でおよそ5〜15%程度と考えられています。その一方で、MCIから回復する割合は、幅はありますが、1年でおよそ16〜41%程度と考えられています。
ここで知っておいてほしいことは、「認知症からMCIに回復することはない」という事実です。
『もしかして認知症?』
私は認知症専門医として、これまで30年以上にわたって、のべ13万人以上の認知症の方々を診てきました。もちろん、その前段階であるMCIと診断した方も数多く診てきました。中には、早めに自身の異変に気づいたことで、MCIであることを自覚し、適切な予防によって回復した方々も数多くいます。
その一方で、MCIと診断されたのちに、病院を訪れることなく、次にお会いしたときにはすでに認知症になってしまっている方もいました。これほど重要であるにもかかわらず、認知度がそれほど高くなく、見逃されやすい段階がMCIなのです。
認知症の人より少ないわけがない
MCIは認知症になる前の段階であるため、厚生労働省は病気として扱っていません。そして、MCIは病気ではないため、現在、MCIの人が日本にどれぐらいいるのか、どのくらいの人が医療機関に通院しているのか、残念ながら不明です。
認知症とMCIに関する数値としては、少し古くなりますが、2013年に厚生労働省が発表した推計があります。これによると、約10年前の2012年時点で認知症の人は約462万人、認知症予備軍であるMCIの人は約400万人いると推計されています。
この数値を見て、私が最初に思ったのは、「認知症の人が約462万人いるのなら、MCIの人がそれより少ないはずはない。約400万人という推計は少なすぎるのではないか」ということです。私のこれまでの経験から言えば、MCIの人は認知症の人の1.5〜2倍はおり、認知症の人よりもMCIの人のほうが少ないというのは、ちょっと考えられないことなのです。