2021年に入ってもコロナ禍はなかなか終息しそうにありません。日本でも亡くなる人が増え続けていて、2月末現在で7910人と、8000人に上りそうな勢いです。

2020年における全国の交通事故の死者数が2839人であることを考えると、これはとても大きな数字といえます。

しかし、海外ではケタが違います。世界で一番死者が多いアメリカでは2月末の時点で50万人を越え、全世界では253万人にも上っています。

そんな状況で、外国からは｢お墓が足りない！｣という、悲鳴のような声も聞こえてきます。

そこで今回は海外へ目を広げて、コロナに関わるお墓の問題を考えてみます。

イスラム教の土葬習慣が背景に

日本で芸能人がコロナで亡くなった際、臨終を看取るどころかにお葬式もできず、火葬済みの遺骨が自宅に送られてきただけという話が報じられ、人々の涙を誘ったものでした。

その後は、お墓なり納骨堂なりに遺骨を納めれば、制約はあるにせよ供養することが可能です。

ところが、そうスムーズにはいかない国もあります。特に問題なのはイスラム教の国です。

イスラム教国のなにが問題なのかというと、土葬のため、コロナによる死者の急増で墓地が足りなくなってきていることです。

体を折り曲げない葬送法もネックに

お釈迦様は火葬されたとされており、それにちなんで、仏教国では火葬が一般的です。もちろん日本も例外ではありません。

一方、キリスト教やイスラム教では、死者はいずれよみがえるとされているため土葬が基本です。

とはいえ、キリスト教国では合理主義的な考え方が広まっており、経済性や衛生面などの点から火葬も普及しています。しかし、イスラム教では戒律で火葬が禁じられているため、現在も土葬されています。

しかも、腰や手足を曲げたりすることもできず、まっすぐに寝かせた状態で埋葬しますから、それなりの広さも必要です。

つまり、コロナ禍で死者が増える中、火葬より広いスペースが必要なために墓地が不足しているというわけです。

急場しのぎでひとつの墓に複数の遺体を埋葬

たとえばインドネシア。この国の人口は2019年現在2億6700万人で、その9割がイスラム教徒です。世界で最も多くのイスラム教徒を擁する国として知られています。

そのインドネシアでのコロナによる死者は2月末現在で約3万6000人。アメリカに比べるとはるかに小さい数字ですが、日本の約2倍の人口で死者は約4.5倍と考えると、決して少なくはありません。それにともなって墓地不足が深刻化しているわけです。

インドネシアの墓地不足は2020年には始まっていました。そこで当局は共同墓地の敷地を広げたり、新たな墓地の建設も進めています。

しかし、それでも追いつきません。そこで当局は、家族であればひとつのお墓に2体以上の遺体を埋葬するように指示したそうです。個人墓が普通のイスラム社会で、いわば家族墓の形式を取り入れたことになります。過去にこんなことがあったかどうかは定かではありませんが、きわめて異例であることはたしかです。

棺に入れられたくないと遺体を強奪

インドネシアでは、墓地不足以外の混乱も起きていると伝えられます。病院やお墓から家族の遺体を強奪する事件が相次いでいるというのです。

通常は、遺体を布でくるんでそのまま埋葬するのですが、コロナ死者の場合は、感染拡大を防止するためラップで包んで棺に入れて埋葬しているそうです。

遺体を棺に収めることが一般的ではないため、これを嫌がる人が家族の遺体を取り戻そうとしているわけです。このトラブルに業を煮やした当局は、遺体を強奪したり、埋葬の邪魔をしたりすれば逮捕すると警告を発しました。

ウイルス拡大を怖れ埋葬拒否

また、同じく人口の9割がイスラム教徒であるエジプトでは、埋葬そのものに反対する勢力が当局と衝突する事件も起きました。埋葬された遺体からウイルスが広がって感染が拡大する、というのがその理由です。

イスラム教では死後24時間以内に遺体を埋葬することになっていますが、地域の住民や有力者が反対するため、死後1週間経っても安置所に放置されている遺体もあるなど、混乱が起きているそうです。

まとめ

日本人は、こうした状況を対岸の火事と、たかをくくっていていいのでしょうか。たしかに99％以上が火葬の日本では、イスラム教国のような急速な墓地不足はあまり考えられません。

しかし、日本にも多くのイスラム教徒が住んでおり、彼ら向けの土葬のお墓もあります。イスラム教徒の人々にコロナ死者が増えれば、墓地不足やウイルス感染を懸念する地元住民による埋葬反対の問題が起きるかも知れません。

そうなると、規模はそれほど大きくなくても、イスラム教国での混乱が日本でも起きる可能性があります。ひいては日本に住むイスラム教徒への差別にもつながりかねません。

それを避けるためにも、ワクチンも含めた感染対策によって早期のコロナ終息が望まれるところです。