「昔はひとりの故人にお墓をふたつ建てた?」~かつてあった両墓制の話~

両墓制という言葉を聞いたことがありますか。かつて、日本ではよく見られ、沖縄にもありました。

お墓は、個人墓の場合、ひとりの死者についてひとつですが、それをふたつ造るものです。

ひとつのお墓を持つのすら大変な現代では、あまり考えられない話ですが、なぜこうした制度があったのか、興味を持ったので調べてみました。

埋め墓と詣り墓を造る

両墓とは、ひとつは死者を埋葬するための「埋め墓」と呼ばれるのもの、もうひとつはお参りするための「詣り墓(まいりはか)」です。

機能面から埋め墓を葬地、詣り墓を祭地とも呼びます。お墓をふたつ建てるので、身分の高い人や富裕な人たちの習慣だったのかと思いきや、実際には一般大衆が行っていたそうです。

とはいえ、大昔からある風習というわけではなく、江戸時代が中心でした。そして現代ではあまり行われません。歴史的に見ると、期間としてはそれほど長くありませんでした。

ちなみに日本の民俗学の父と呼ばれる柳田國男が、昭和4年に雑誌の記事で「葬地」と「祭地」という言葉を使い、その後柳田の弟子だった大間知篤三が「両墓制」という言葉を使ったとされます。民俗学の研究対象になったのが、昭和初期ごろだったことがわかります。

伝染病の蔓延を防ぐ意味もあった

ではなぜ、ふたつのお墓を造るのかというと、死は恐ろしくて忌み嫌うべきものであり、遺体に対しても恐怖を抱いていたことから、埋め墓を集落から離れた場所に造り、その代わり集落内の寺院等に供養のための詣り墓を建立したのだといわれます。

また、土葬が一般的な時代は、遺体が腐敗していく際の臭いを避ける意味もあったようです。さらに遺体が集落内にあるとそこから伝染病が発生することも考えられます。実際問題として臭気や病気を防ぐという意味からも、埋める墓と参る墓を別にすることには合理性があると思えます。

もっといえば、人口密集地のど真ん中に遺体を埋める墓を確保するのはスペース的に厳しいし、なんとか確保できたとしても、代々に渡って遺体を埋めることをくり返していくのは難しいでしょう。となれば、人里離れた場所に遺体を埋め、供養は家の近くでという発想が湧いても不思議ではありません。

近畿地方に多く見られた

両墓制が多く見られたのは、滋賀、奈良、兵庫の各県と京都府で、近畿地方で盛んな風習であったことがわかります。ほかには三重、福井、静岡の各県でも見られ、現在では埼玉や長野、奈良の3県および瀬戸内海の島々に存在するそうです。

存在はするものの現在では使われていないものもある一方、両方を造る風習自体が今も残る地域もあるようです。

両墓制の起源は沖縄?

一方、かつては沖縄にも両墓制がありました。ただし、本土のそれとは少し性格が違い、いわゆる洗骨の前と後でお墓を分けるというものでした。しかし、これを根拠に柳田國男や大間知篤三は、日本における両墓制の起源は沖縄にあると考えていたようです。

遺体は集落から離れた場所で風葬され、数年後に洗骨されます。それを終えると骨壺に入れられて、別の場所にある先祖代々のお墓に納められるというわけです。洗骨された時点で死者は成仏し、祖霊になることができるとされます。

祖霊になったところでお骨をお墓に納め、生者はそこにお参りすることになるわけで、それもスジが通る話です。なので、柳田らは両墓制の起源がそこにあると考えたのでしょう。ただし、現在では風葬が残っている地域でも、洗骨前後でお墓を分けることはしていないようです。

火葬の普及によって下火に

こうしたいきさつを見ていくと、両墓制の背景には土葬や風葬の習慣があったことがわかります。遺体への恐怖や衛生上の問題から、また、洗骨を中心としてお墓を分けたというわけです。

ということは、両墓制が廃れていったのは、火葬の普及によるものだったと考えられます。お骨にすれば小さくなるし、臭気や伝染病発生の心配もありません。そのままお墓に納めてお参りすることも可能になります。

ちなみに、浄土真宗の門徒の一部ではお墓を造らないケースもあるといいます。今回は両墓制について見てみましたが、現在のようにひとつのお墓を造ることを単墓制、浄土真宗の門徒のようにひとつも作らない習慣を無墓制といいます。この三つは今も民俗学の重要な研究テーマになっています。

まとめ

亡くなった人ひとりに対してふたつのお墓を造ることを両墓制といいます。両墓制は、死や遺体に対する怖れや、臭気・病気を避ける面もからも合理的な風習といえます。

沖縄では洗骨の前後でお墓を分ける習慣があり、柳田國男らは、それを根拠に両墓制の起源が沖縄にあるという仮説を立てました。

火葬が普及した結果、現在では両墓制はほとんどなくなり、きわめて数少ない地域で残っているのみです。

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