「沖縄で一番大きなお墓って、どこ?」~糸満にある門中墓を訪ねてみた~

先日の記事で、浜比嘉島にある沖縄でもっとも古い(かも知れない)お墓を紹介しました。では、沖縄でもっとも大きなお墓はというと、糸満市にある幸地腹・赤比儀腹両門中墓(こうちばら・あかひぎばるりょうむんちゅうばか)だとされています。

王家等を除く一般のお墓としては、沖縄でもっとも有名なお墓といってもいいところですが、筆者は恥ずかしながらこれまで行ったことがありませんでした。

そこで今回、この門中墓を訪ねてみました。

幸地腹・赤比儀腹両門中墓は、正面にヒンプンがあり、向かって右手に幸地腹、左手に赤比儀腹のお墓があります。

まずは門中についておさらい

沖縄特有の門中は始祖を同じくする父系の血縁集団と定義されています。門中といえば、なんとなく共通のご先祖様を持つ親戚の集まりととらえられがちですが、父系とされているので、そのメンバーは明確に決まっています

父親と母親、その間に生まれた男の子はもちろん父親の門中に属します。女の子の場合は結婚とともに夫の門中に属するようになります。

頼りになるけどわずらわしい部分も

門中は結束力が強く、たとえばお金に困っているメンバーがいたら支援したり、子育てを互いに手伝ったりなど、助け合って生きる集団でした。特に貧しかった時代はこうした結束で苦しい生活をしのいできたのです。

一方、経済的に豊かになるにつれて、門中のしきたりやメンバー同士の関わりを有益というよりもわずらわしいと感じる人も出てきました

また、沖縄では長男の嫁は苦労が多いといわれますが、これが門中墓を代々継ぐ本家(むーとぅーやー)の長男の嫁だと、さらに大変です。お墓や仏壇がらみの年中行事では料理や酒などを用意しなくてはならないし、門中メンバー、特に年上女性からのプレッシャーもハンパではありません。

そのため、本家の長男とは結婚しないという女性もいるほどです。

門中墓とはなにか

では、門中墓とはなにかというと、門中のメンバーが入るお墓ということになります。昔の貧しい時代では、個人でお墓を建てることが難しかったこともあって、親族がひとつのお墓に入るスタイルには大きなメリットがありました。

大勢の人が入るので、当然規模が大きくなります。もちろん、歴史の長い門中であればあるほど、お墓が大きくなるのもうなずけますね。

大きい理由はほかにも

単に多くの人が入るからという物理的な理由だけでなく、大きい理由には葬送文化も関わっています。それは風葬です。

このコラムでは何度も書いてきましたが、昔の沖縄には風葬文化がありました。遺体を埋めたり火葬したりせず、自然に任せて風化させるというものです。

お墓に遺体をそのまま安置するので、それなりのスペースが必要です。それを確保するためにお墓全体が大きくなりました。また、雨や台風も多い風土なので、強固な建物で遺体のまわりを囲う必要もありました。

さらに、お墓に眠る故人が多いと、縁者も多くなります。納骨やシーミーなどで多くの人が集まり、宴会が開かれることもあるので、庭も広く取らなくてはなりません。

5500人が眠る門中墓

さて、幸地腹・赤比儀腹両門中墓に行ってみました。糸満ロータリーからもほど近い、住宅街の中にあります。

敷地は1600坪もあるそうです。最初に建立されたのは1684年のこと。まだ江戸時代の前期です。当初はひとつの小さな亀甲墓でしたが、子孫の拡大とともに大きくなり、1935年に大改修されました。それによって、亀甲墓から現在の破風墓に変わったそうです。

ところで腹(はら)というのは、主に本島南部で門中のことをいいます。したがって、このお墓には幸地と赤比儀の両門中の人々が葬られていることがわかります。いわばふたつの門中の共同墓というわけです。

幸地腹側から見た様子。広大な敷地には、トーシー(当世)墓1基、シルヒラシ墓4基、ワラビ(童児)墓2基の破風墓が並んでいます。

もちろん現在も使われている

創建されたのは前述のように17世紀後半のこと。300年以上も経ているので、一部は古墳といってもいいようなお墓です。ただし、現在も使われているお墓もあります。それをトーシー墓といいます。

シルヒラシは、もともと風葬において最初に遺体を安置するスペースをいいます。しかし、もちろん現在は火葬になっているので、本来の機能を持っているわけではありません。

旧暦10月20日には、年に一度お墓を開けるジョーアーキーが行われ、一年忌を終えた遺骨を本墓に移すそうです。移された遺骨は、墓の奥にあるご先祖様の遺骨と一緒にされます。

西側の赤比儀腹側から見ます。両腹とも庭がゆったり取られ、シーミーのときのにぎやかさが想像されます。

側を通る道路には案内看板も設置され、文化財か観光スポットのようです。

まとめ

5000人以上が葬られているといっても、一族のお墓であり公共の墓地ではありません。それでも、現在はほぼ文化財のような扱いになっており、観光客も多く訪れます。沖縄の観光ガイドでも紹介されているほどです。

個人墓が多くなる流れの中で、門中墓は廃れる傾向にあり、なかには墓じまいしてしまう門中墓もあります。その意味では、幸地腹・赤比儀腹両門中墓も、門中以外の人もやさしく見守り、大切にしていきたい存在といえます。

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