「祭祀承継者ってなに?」~トートーメーやお墓はだれが継ぐのかというお話~

沖縄では、たとえばお父さんが亡くなったときなどに、トートーメー(位牌)を継いだ者がすべての財産を相続するという習慣があります。しかも、継ぐのは長男というのが一般的なため、次男三男や女性は継げないこともあり得ます。

しかし、遺産相続に関しては民法にきちんとした規定があり、遺言書などで指定されていない限り、子どもの相続権は平等です。

このように、沖縄の習慣と法律の規定が異なっているためトラブルになるケースがあります。それを避けるために「祭祀承継」という民法の規定があります。

お盆で親族が集まると、相続に関する話が出ることもあるかと思いますが、トラブルを防ぐ観点からも祭祀承継について知っておきたいものです。

「遺産相続」と「祭祀承継」は別もの

親が亡くなったとき財産を継ぐのは遺産相続です。しかし、トートーメーやお墓を継ぐのは祭祀承継といって、遺産相続とは別のものです。

それが、沖縄の慣習では、祭祀を承継する者が遺産をすべて相続するようになっているのがトラブルの大元なのです。

民法では祭祀承継について明確な規定がある

民法第897条では、祭祀に関する権利の承継として、下記のように規定されています。

1.系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。

2.前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める。

この897条の規定には「遺産」も「相続」も出てきません。遺産相続と祭祀承継は関係ないことがここでも推測できます。

祭祀承継者が全財産を相続するとは限らない

したがって、法律の観点から見れば、たとえば祭祀承継者は長男だけど、財産は兄弟姉妹が平等に、あるいは家や親の世話をがんばった人が相続するというのも可能なのです。

そのため、長男が「自分がトートーメーや墓を継ぐから、財産も自分が全部もらう」といったとしても、他の兄弟姉妹は「いや、あんたがトートーメーや墓を継いでも、財産は別だ」といえるわけです。

祭祀承継者の決め方は3つある

では、具体的に祭祀承継者はどのように決まるのでしょうか。基本的には次の3つのパターンです。

1.亡くなった人が遺言書などでトートーメーや墓を継ぐ人を指名

2.遺言による指名がない場合は、その地域の慣習で決める

3.指名がなく慣習でも決められない場合は家庭裁判所が決める

1の遺言の指名による場合はスッキリ決まります。このあたりは遺産相続の場合と同じですね。

遺言がない場合2となります。法律でも慣習によるとしているので、沖縄の場合は長男となるケースが多いのはうなずけます。ただ、何度もいいますが、慣習によって長男が祭祀承継者となった場合でも、それがそのまま全財産を相続することにはならない、というのが法律の立場です。

指名がなく、慣習でも決められない場合は3のように家庭裁判所の調停や審判によります。親の世話や家のことをどれだけやってきたかなど、それまでの状況を考慮して決まるわけです。

もちろん、家庭裁判所へ持ち込む前に、承継権を持つ人たちが話し合いで決めることも可能です。

逆に不平等になることも避けたい

前述のように民法の規定では遺産相続における権利は兄弟姉妹すべて平等です (相続権者が子どもだけで遺言による指定がない場合)。

それとは別に、慣習に従って長男が祭祀承継者となり、トートーメーやお墓を継ぐことになったとしましょう。

すると、それにまつわる行事や法要などを長男が責任を持ってやらなくてはならず、さらにお墓の維持費や場合によっては建て替えの費用も負担しなくてはなりません。遺産は兄弟姉妹で平等に分割して相続したのに、トートーメーやお墓にまつわる労力やコストは長男ひとりで負担することになると、逆に不平等になったりします。

こうなってしまうと、負担だけ押しつけられる長男は、祭祀承継者となっても行事や法要、墓守などをしなくなってしまう可能性もあります。こうした負担は法律で押しつけることができないのでなおさらです。

結果、トートーメーを守る人もいない、お墓の手入れをする人もいなくなって荒れ果てて無縁墓になってしまうことも考えられます。

そのため、祭祀承継者には相続する遺産を多めにするなど、兄弟姉妹で調整することもありえます。将来のことを考えると、それがトートーメーやお墓を守ることにつながるというわけです。

まとめ

遺言がないケースでは、遺産相続と祭祀承継をセットで考えず、とりあえず分離した方が無難なようです。その上で祭祀承継者を決め、その大変さを考慮して遺産の相続割合を決めるというのがトラブルを避けるひとつの方法でしょう。

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