沖縄の風習シリーズ「お墓は文化です!」~お墓なんかいらない、という前に考えたいお話~

近年は散骨などが少しずつ広がりを見せたり、少子化で継承者がいなかったり、そもそも結婚していなかったり、あるいは管理料などの費用負担がかさんだりなどの理由で、お墓を建てない人も増えています。

なかには「お墓なんかいらない」と考える人もいるようです。たしかに、効率性や経済性を考えると、お墓がなくてもいいという発想があってもおかしくありません。

しかし、先祖崇拝が宗教のようにすらなっている沖縄において、お墓は、そのご先祖様と生きている人をつなぐ大切な存在です。それだけに、お墓は文化的にも貴重な存在になっています。

したがって、「お墓なんかいらない」という前に、お墓の文化的価値についても思いを馳せてみたいものです。そこで今回は「お墓は文化」というテーマで考えてみます。

世界遺産になっているお墓も多い

文化的な価値があるといえるのは、世界遺産に登録されているお墓も多いことが理由のひとつです。たとえばエジプトのピラミッド。王様のお墓であることはよく知られています。中国には秦の始皇帝陵があり、日本では大阪府にある百舌鳥・古市古墳群も近年登録されました。

また、沖縄では玉陵(たまうどぅん)が「琉球王国のグスク及び関連遺産群」のひとつとして世界遺産に登録されています。

玉陵は王家のお墓

このように、世界遺産にも登録されている玉陵は、沖縄でもっとも文化的価値の高いお墓といっていいでしょう。

玉陵は1501年に、当時の尚真王が、父である尚円王のお骨を改葬するために建造したといわれます。琉球の王家は、第一尚氏と第二尚氏のふたつの系統に分かれますが、尚円王は第二尚氏の初代であり、尚真王はその息子で3代目となります。

これ以降、玉陵は第二尚氏王家歴代のお墓となりました。そのため、規模は大変大きくなっています。墓室は3つに分かれており、東室は国王と王妃のお骨が、西室はその家族のお骨が、中室は洗骨前の遺体を安置するようになっています。

玉陵は、首里城をモデルに造られたともいわれます。首里城同様、沖縄戦で大きな被害を受けましたが、戦後になって復元されました。2018年には、沖縄県内の建造物としては初めて国宝に指定されています。

沖縄初にして最大の破風墓

ところで、沖縄の伝統的なお墓の形式として亀甲墓と破風墓のふたつがあります。亀甲墓は亀の甲羅のような曲線を描く形状で、破風墓とは簡単にいえば三角屋根を持ったお墓です。

玉陵は、沖縄で始めて造られた破風墓で、さらに沖縄最大の破風墓ともいわれます。琉球王国時代には亀甲墓と同じように、破風墓も一般庶民には建造が禁じられていたため、広く造られるようになったのは明治に入ってからのこと。したがって、古い破風墓としての玉陵は大変貴重なのです。

世界遺産に登録され、しかも国宝指定も受けた玉陵。

玉陵に葬られなかった国王

玉陵は第二尚氏王家歴代の王様が葬られているお墓ですが、第7代の尚寧王はこちらには葬られていません

尚寧王の在位期間は1589年から1620年です。実はこの間に沖縄にとっては非常に大きなできごとがありました。薩摩島津氏の琉球侵攻です。

1609年3月、島津氏は約3000の軍勢を琉球に送りました。この侵攻に琉球王府はほとんど抵抗できず、1週間ほどで首里城は陥落。尚寧王も城をあとにしました。このあと、琉球では島津支配が明治に入るまで続くことになります。

島津の侵略を許したことを恥じた

尚寧王は、島津の琉球侵攻に屈したことに責任を感じ、王家代々の墓である玉陵に入ることを拒否しました。そして葬られたのが浦添ようどれでした。

浦添ようどれは英祖王が1261年に建造したとされ、同王とその家族が葬られています。英祖王は沖縄で初めてお寺を建てた王で、その隣に建造したのが浦添ようどれです。

ところで、2016年にアメリカ映画の「ハクソー・リッジ」が公開されてヒットしました。その舞台となった前田高地の断崖に位置するのが浦添ようどれです。墓室は、この断崖に横穴を掘って造られ、正面は石積みで、漆喰で塗り固められています。

尚寧王が葬られている墓室は1620年に造られました。英祖王陵の建造から約360年後のことになります。

ちなみに、第二尚氏の歴代国王たちは首里生まれなのですが、尚寧王は浦添生まれです。第6代尚永王には男の子がいなかったため、分家の子である尚寧が王位を継ぎました。そのため、浦添ようどれに入ったのは、出身地に葬られたかったからだという説もあります。

浦添ようどれの向かって左、東室に尚寧王とその家族が葬られています。

浦添ようどれの向かって右、西室が英祖王陵といわれます。

まとめ

お墓には文化や歴史が反映されていることがあります。王家のお墓になると特にそうですね。こうしたことも織り込みつつ、自分にとって、あるいは家族にとって、お墓は必要なのかどうかを考えてみるのもいいのではないでしょうか。

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