お墓について多少とも興味のある方は、終活という言葉を聞いたことがあるかもしれません。終活は「人生の終わりのための活動」などと定義され、人生の最期に向けてさまざまな準備をしたり、自分らしい人生の最期を考えることとされています。
終活という言葉は21世紀に入ってから一般化しました。これをテーマにした本が出版されたり、流行語になったりもしました。
その背景には、第二次大戦が終わったばかりの1947~49年の第一次ベビーブームに生まれた、いわゆる団塊の世代が定年退職を迎える時期だったことがあります。
高齢化社会がさらに加速していくタイミングだったこともあり、この世代に共通するひとつの価値観として生まれたのかもしれません。
終活の一環として生前にお墓を造る人も増えています。近年生まれた流れかと思いきや、実は生前墓の建立には少なくとも2000年以上の歴史があります。というのも秦の始皇帝が生前墓を造営していたからです。
それをふまえて今回は終活のひとつ形である生前墓について考えてみます。
秦の始皇帝が生きたのは2200年以上前!
始皇帝といえば、歴史の教科書では中国を初めて統一した人と書かれています。ちなみに皇帝という言葉を初めて使ったのも始皇帝だといわれます。
生まれは紀元前259年、亡くなったのは紀元前210年。細かくいうと誕生は今から2279年前、死去したのが2230年前ということになります。
始皇帝は暴君ともいわれますが、封建制から中央集権制への移行、万里の長城の建設など、さまざまな事業を展開しました。そのひとつに秦の始皇陵があります。
広さは東京ドーム1,000個分以上!
始皇陵というのは、簡単にいえば始皇帝のお墓です。広さは55k㎡以上、東京ドームなら軽く1,000個以上入る計算になります。
始皇陵には8,000体にもおよぶ兵士の人形、いわゆる兵馬俑も埋葬されています。さらに司馬遷の書いた史記には、始皇帝の棺のまわりには水銀の川が流れていたと記述されています。
この話は伝説のたぐいと受けとめられていたのですが、近年の調査で実際に水銀が蒸発した跡が確認され、事実らしいことがわかっています。当時、水銀には不老不死をもたらす力があると考えられていたようです。
12歳から自分の墓造り?
始皇帝は秦王に即位後まもなく陵の造営に取りかかったとされます。それから37年かけ、1日70万人の囚人を使って陵を造営したといいます。
これが事実だとすると、彼は49歳で亡くなっているので、12歳の時から自分の墓を作り始めたことになります。
終活を考えていたかどうかは疑問ですが、人生のかなり早い段階から死および死後の世界を意識していたことはいえるようです。
ちなみに始皇帝の死因は水銀中毒だという説があります。
生前墓は縁起がよい!
中国では王や皇帝といった君主が生前に墓を造っておくことを寿陵(じゅりょう)といいます。始皇帝のお墓はもっとも有名な寿陵といえます。
君主らが生前に墓を造った背景のひとつに、それが長生きにつながるという考え方がありました。不老不死にこだわった始皇帝は、その方法を探すために日本にも人を派遣したといいます。
日本にも寿陵の考え方は取り入れられ、聖徳太子も生前にお墓を造りました。近くは昭和天皇も存命中にお墓を建立しています。
こうした人々は「生きているうちにお墓を建てるなんて縁起でもない」というネガティブな考え方は持っていなかったのでしょう。
現在では、一般の人も生前墓を造る人が増えています。背景に終活ブームもありますが、始皇帝や聖徳太子の例を見るように、もともとは長寿など縁起のよいこととされていたのは確かです。
仏教・キリスト教の観点からもおすすめ!
生前墓は、仏教の観点から見てもよいことです。仏教では生きているうちから仏事を行うことを逆修(ぎゃくしゅう)といい、大変よいこととされているからです。もちろん生前墓の建立も逆修のひとつであり、それによって長寿や家庭円満につながるとされます。
また逆修によって功徳が積まれますが、それは自分のみならず子や孫にも受け継がれます。そのため、子孫の繁栄や幸福にもつながるとされます。
仏教においても、生前墓が縁起の悪いものだという教えはいっさいありませんし、もちろんいつ建てるべきだという指定もありません。
生きているうちに死を覚えよ
旧約聖書には、「私たちの齢は七十年。健やかであっても八十年。しかも、その誇りとするところは労苦とわざわいです。それは早く過ぎ去り、私たちも飛び去るのです」(詩篇90:10)とあります。
「死を覚えよ」とは、すなわち「祈りつ死をを意識せよ」ということなのです。キリスト者は、死後の葬儀の時に登場するだけでなく、日常から人間がいつか死に神のもとへ帰るという希望を持って日々祈りつつ日毎に歩んでいくためにも終活は必要と近年は注目をされています。
まとめ
昔の君主たちが建てた寿陵は、道教の考え方から来ており不老長寿の願いの具体化でもあるそうです。そしてそれが仏教の逆修の思想と融合し、長寿・家庭円満・子孫繁栄につながるという考え方ができあがりました。
このように長い歴史と宗教思想を背景にした生前墓の建立は十分検討の価値があるものです。
また、縁起がいいというだけでなく、ある程度自分の希望するデザインにできる、親族に負担をかけない、税の面でも有利になるなど、実利的なメリットもあります。それらについては次の機会にくわしく見ていきましょう。