沖縄のお墓を学ぶ~後編~


前回の沖縄のお墓を学ぶ~前編~に引き続き「沖縄のお墓」について学びたいと思います。本土と風習やお墓の形状の違いや沖縄のお墓の歴史について前回は書かせていただきました。その後編として沖縄のお墓に関する事を詳しく解説していきます。

沖縄のお墓に関する祭祀は多くあります。それこそ「お墓は物件のようなもの」といわれています。家を建てる時と同様にお墓を建てる際には、地鎮祭や完成祝いにあたる開眼供養、さらにお墓にお骨を収める納骨式も行われます。

このページでは、それらのお墓に関する儀式の意味や必要性などに着目し、順を追って解説したいと思います。

沖縄のお墓にまつわる行事や祭祀

地鎮祭(ティンダティ)

地鎮祭

お墓を建てる前に建てる土地の神様へのあいさつや無事故祈願を行います。ご自分で行う場合もありますが、お寺のお坊さんや昔からの習わしに沿って霊能士(ユタ)にお願いするケースもあります。

いずれにしてもご自身が納得できるかたちで行うことをおすすめします。

開眼供養

開眼供養

お墓が完成すると開眼供養が行われます。昔はそれこそ新築祝いのように歌を歌ったり踊ったりとそれは大きくお祝いしていました。しかし、現代では派手に大きく行うのではなく、ごく身近な家族や親戚で行う方が多いです。

ここでも霊能士(ユタ)やお坊さんの指示に従い儀式をすすめていきます。当日に重箱を用意し、ご先祖様に無事お墓が完成したことを報告します。同時に子孫繫栄の祈願も行います。

にぎやかにお祝いムードで行えるのは新仏(新たに亡くなった方)がいない場合です。お墓の完成時に亡くなった方のお骨を納骨する場合は、遺族の気持ちを考慮しお祝いという形にしない場合が多いです。

行う時期に関しては、潮の満ち引きに合わせて行います。しかし近年では参加する方の事情を考え、土日に行うことが増えています。

納骨式

納骨式

お墓の完成時に納骨の必要がある場合は納骨式を行います。この場合も上記と同様にお坊さんや霊能士(ユタ)の方の指示に沿ってすすめていきます。ごちそう(クワッチー)入りの重箱や白餅、お菓子に果物など用意するものが複数あります。

参加する人に関しては特に取り決めがないので、ご先祖様を供養する気持ちがあれば良いでしょう。

注意する点は、もしもそのお墓に納めるべきお骨がない場合は、お墓の工事に使用した道具や資材をお墓の中に入れておきます。こうする事で、あの世の役人に「このお墓には誰も眠っていませんよ、未完成なお墓です」とを知らせる意味があります。

アドバイス
このような場面に子どもを立ち会わせるのは気がひけるとおっしゃる方もいます。しかし実際にはその子どもが将来お墓を守っていく立場になるかもしれません。そのことを考えると貴重な体験として経験させてみるのも良いのではないでしょうか。

お墓にまつわる年中行事

行事

十六日(ジュウルクニチー)

沖縄では旧暦に合わせてさまざまな行事が行われます。旧暦の1月16日は「あの世のお正月」とされていて、お墓に出向き白餅と重箱(クワッチー)とウチカビをお供えします。

また同じ沖縄県内でも、地域や家庭によっては行わないところもあります。宮古や八重山などの先島では大きく行う風潮があり、沖縄本島北部では新暦の1月16日に行う事もあるようです。

清明祭(シーミー)

お墓にまつわる大きな行事として「清明祭」があります。二十四節季の一つである「清明」の時期に行われる行事で家族や親戚が一同に会し、墓掃除をした後にご先祖様に手を合わせます。

ここまでは本土のお墓参りト変わりありませんが、沖縄のお墓参りは墓前でごちそうを皆で囲みます。ピクニックのようで、和やかな時間を皆で共有する事ができます。

詳しくは過去の記事に記載しておりますのでそちらをご覧ください。

清明祭(シーミー)~沖縄のお墓参りについて~

七夕

旧暦の7月7日、七夕の日にはお墓に出向き墓掃除をします。管理型の霊園墓地の場合、通常霊園が管理しているので簡単な掃き掃除やお供えするものの準備で済みます。しかし、個人墓地の場合は草刈りや邪魔になる木の伐採もやらなければなりません。その時に出たゴミの処理も忘れずに行います。

掃除を終えると、生花や酒、お水とともに線香をあげます。キレイにしたお墓でご先祖様に「もうすぐお盆がやってきます。今年もお迎えする準備ができていますよ。安心してお越しください」と伝えると良いでしょう。

旧盆

旧暦の7月13日~15日に行われる年中行事です。本土のお盆のようにあの世からご先祖様がそれぞれの家に戻ってきて3日間過ごすと言われています。

お盆の初日(ウンケー)の日にお墓にご先祖様を迎えに行く地域もありますが、多くの地域ではお墓に行くことはなく、仏壇の前で執り行います。

ウンケージューシーを焚いて初日にお供えし、最後のウークイの日にはごちそうをお供えして最後にウチカビを燃やします。ご先祖様の御霊を迎えお送りする儀式としてエイサーがあります。エイサーはその地域の青年会が行い、三線や歌に合わせて踊ります。地域性が大きく異なり見ている人を楽しませてくれます。

お彼岸

春分と秋分の日を含めた前後3日間に彼岸祭が行われます。沖縄では春の彼岸の事を旧暦に合わせて二月彼岸、秋の彼岸を八月彼岸と言います。

沖縄では彼岸の日にお墓に出向く方は少ないですが、その期間に仏壇やお墓をきれいにして白餅とクワッチー、お酒を仏壇にお供えします。最後にはウチカビを焼いて終了です。

法要(スーコー)

さらに、一回忌や三回忌などの法要の際にも基本的にはお墓参りをし、故人を家に迎え入れたのちに仏壇に料理をお供えします。

料理の準備をしきたりや年長者の指示によって進めていくのと同時に、来客が多い場合はお客様の応対も同時に行わなければなりません。その家の女性たちは忙しさの中テキパキと動かなくてはならないので大変です。

もちろん法要の時用の料理や来客用の料理は外注する事もできます。沖縄のお弁当屋さんでは法事用のメニューのパンフレットもあるので、法要が平日にあたる場合はそういった業者は重宝します。

沖縄のお墓参りに欠かせない道具について

平御香(ヒラウコー)

沖縄のお墓は、本土のお墓と違いとても独特なのはここまででご理解いただけた事でしょう。本土の方がお墓参りに行くときに思い浮かべるお墓参りセットとは異なるセットが沖縄には存在します。それらの紹介と解説をしていきましょう。

ビンシー

お墓参りに持参する木箱で、ウガン(御願=祈りや拝みなど)に必要な生米やお酒のセットが入っています。仏壇のあるお家には常備してあります。仏具店で購入する事ができ(安価なもので5~6千円から)、中身のお酒や生米は自分で用意します。お酒は泡盛を用意する家庭が多いようです。

さらにウチカビやヒラウコー、賽銭も収納されており、ウガンに必要なセットが収められています。長く利用するものなので、カビなどの発生を防止するために乾いた布で拭いてキレイにしたり、ラップを利用し工夫して大切に保管します。

ウチカビ

ウチカビは定番中の定番と言えます。ウチカビは独特の風習で。ウチカビとは「あの世のお金」と言われています。旧正月や旧盆、清明祭(シーミー)にも使うので、その時期になるとスーパーなどでで平積みで販売されているほどです。

スタンダードなタイプは黄土色でキッチンペーパーより少し硬めの紙質で、3枚~5枚をひとくくりにして使います。またウチカビには丸い古銭のような型が模様のように刻まれています。

ごちそうやお供え物の上に乗せ、お供えの儀式を終えるとごちそうはウサンデー(あやかる、皆でいただきます)します。上に乗せていたウチカビはカニバーキを使って最後にまとめて燃やします。燃え残る事なくキレイに燃えるとあの世に送金できたことになります。燃えた後の灰に水やお酒をかけて終了です。しきたりによってはカニバーキの中にお供え物の一部を入れる場合もあります。

ウチカビを燃やすと灰が飛散するので屋外で行う事が多く、お墓で行う時に備えお墓を建てる時にあらかじめウチカビを燃やす場所(ジングラ)を作る方もいます。しかし最近では省スペースやコンパクトにこだわり設計する方も多くいて、ジングラを省く設計になっている例もあります。

ヒラウコー

沖縄の仏壇には常備してあるお線香の事です。本土でも使用する細いタイプの線香が6本横につながっているような形状をしています。本土で使用する線香は緑色や深い紫色で白檀やラベンダーなど香りによって色付けされている種類があります。

対して沖縄の線香は黒色で香りも本土の線香に比べて強くありません。沖縄の線香であるヒラウコーは焚くことであの世との通信ができるとされており、お墓参りでも仏壇でも変わらず線香に火を灯し、手を合わせ伝えたい事柄を話します。

また、各家庭の台所にあるヒヌカンと呼ばれる「火の神」へ、家の繁栄や家族の健康を願う時もヒラウコーが使用されます。神様に対してお願いがあるときはヒラウコー2枚と半分(十二本三本)を焚き、祈りを捧げます。家長の立場にある女性や長男嫁以外の家族が仏壇に手を合わせる際はヒラウコーの半分(3本)を使います。

余談ではありますが、基本的に仏壇への拝みは女性が行うことになっており、家長の妻や長男嫁がその役を務めます。そのことから清明祭と旧盆の時期に沖縄の長男嫁は忙しいと言えるのです。

カニバーキ

カニバーキとは金属でできたタライやボウルの事で、ウチカビを燃やす時に用います。また、ウチカビを燃やす他にもお供え物の一部やお酒を入れる事もあり、劣化が早くなるのでアルミホイルを敷いてその上で行う家庭もあるようです。

菜箸でウチカビを持ちながら、燃え残りがないよう満遍なく火を回していきます。燃やしていくと灰が飛ぶので基本的には屋外で行いますが、各家庭で玄関先で行うこともあれば仏壇の前で行う家庭もあります。

また、シーミーでウチカビを燃やす場合は、上記でも触れているようにお墓にカニバーキを持ちこむのではなく、あらかじめジングラを作ってそこで行います。ジングラがあるお墓では火の始末や後処理に気を配らなければなりません。

切っても切れない縁のある人物

ユタ

お墓にまつわる祭祀を語る上で欠かせない人物がいる事はご存じでしょうか?法要の際に何かわからない事があれば、お世話になっている住職に相談に乗ってもらうなどが考えられます。しかし沖縄はほとんどが特定の宗派を持たず「先祖崇拝」の家庭がほとんどです。

その為、地域や家庭によってしきたりが違います。本来であればその家庭のしきたりを年長者に習って行うのですが、諸事情によりしきたりの継承がうまくいかない場合があります。そんな時に心強い相談役がユタと呼ばれる方です。

故人の声や神様の声を聞く役割を担う人物であり、お墓や仏壇が関係する行事の手順やしきたり、はたまた家族の心配事や気にかかる事など多岐にわたって話を聞き、アドバイスをしてくれます。

アドバイス
太古の時代に預言者や占い師、呪術師、祈祷師がいたように「ユタ」も昔からその力を継承された方々です。多くの情報が錯綜している現代において不思議な世界の領域の話で、信じる信じないが分かれる事かと思いますが、仏壇の事やお墓の事など普段人に相談しにくい事柄を聞いてみるのも良いかもしれません。

まとめ

古くから人々に語り継がれ継承されてきた沖縄独自の年中行事や祭祀は、少しずつ形を変えながら現代社会にいきづいています。今、現代に生きる私たちが何気なく行っている行事には意味があり、ご先祖様を大切にする気持ちが込められています。

正しく継承する事も大切ですが、最も大事にしたいのはご先祖様を敬い供養する気持ちと、未来を生きるであろう子や孫に伝えていくことではないでしょうか。ガチガチに守らなければいけないとなると、受け継ぐ者にとって負担になってしまいます。今と昔では環境が大きく変わっていますので、柔軟に考えて執り行うと良いでしょう。

今回は沖縄のお墓に関する祭祀や行事についてお話ししました。前編と今回の後編を通して少しでもお墓の事を知っていただけたなら幸いです。私共みくにではお墓の専門家として、お墓の事をお客様に知っていただく、誰にでも分かりやすく丁寧に説明する義務があると考えます。

私共もまだまだ勉強中ではありますが、お客様に正しい情報を提供できるよう頑張って参りますのでこれからもよろしくお願いいたします。それでは今月はこの辺で、また次回お会いしましょう。

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