「認知症の老親」入院費月34万円…介護離職の50代・元会社員〈取り戻せない人生とお金〉に慟哭

 

将来の年金受給額を不安視する人が増えている。しかしある意味、自分の心配に終始できる人は幸せだ。

それ以前に「親の介護」という問題を背負い、年金生活よりもっと手前の、会社員人生すら手放さざるを得ない人もいる。高齢化の影響により、認知症介護が求められるケースは激増中。実情を探る。

 

認知症の高齢者、治療・介護にいくら必要なのか?

世界でも群を抜く超・超高齢社会となった日本。『介護給付費等実態統計』(厚生労働省)によれば、年代別の人口に占める要介護認定者の割合「40〜64歳」が0.4%、「65〜69歳」が2.9%、「70〜74歳」が5.8%となっている。

 

だが、後期高齢者となる「75〜79歳」では12.7%、「80〜84歳」では26.4%、「85歳以上」では59.8%と、75歳を過ぎたあたりからその割合は急激に増加していく。

 

この数値を逆算すると、アラフィフ当たりの年齢から「親の介護問題」を抱える人も急増すると想定される。

『令和4年版高齢社会白書』(内閣府)では、「65歳以上の要介護者等が介護が必要となった主な原因」の第1位は「認知症」で18.1%だ。

以降、「脳血管疾患(脳卒中)」15.0%、「高齢による衰弱」13.3%、「骨折・転倒」13.0%と続く。

 

男女別でみると、男性1位は「脳血管疾患(脳卒中)」24.5%だが、女性1位は「認知症」で19.9%となっている。

おそらく、長い女性は平均寿命が長いぶん、認知症発症リスクが高くなるからだと思われる。

親が認知症を発症したとき、まず気になるのが費用面だ。厚生労働省と慶應義塾大学の研究によれば、通院治療の費用が月3万9,600円程度。

1年で47万5,200円程度になる。もちろん、月に数千円程度の薬代も別途必要だろう。入院となった場合は月34万4,300円程度、1年で413万1,600円程度。この入院費用は治療費と食費を合わせたものだが、おむつ代やクリーニング代、個室料金などは別だ。

 

介護保険サービスを利用する場合、原則1〜3割の自己負担となる。また、サービス費用は患者のレベルによって違ってくる。

「要支援1」(日常生活は可能だが、認知症予防のために支援が必要)なら月5,003円程度、「要介護1」(歩行が不安定で、部分的な介助が必要)なら月1万6,692円程度、「要介護3」(排泄、入浴、着替えに介護が必要)なら2万6,931円程度。

 

さらに施設に入居となると、比較的症状の軽い患者が入所するグループホームなら月15万円程度、重度の認知症患者が入所する老人ホームは月25万円程度が相場だ。

 

 

年間10万人の介護離職、親を見送ったあとの彼らは…?

 

認知症となった親の治療や介護には、多額の費用が必要なだけではない。親族、主に子どものサポートが必要だ。

介護は終わりが見えず、大きな負担となる場合も少なくない。

認知症となった親の付き添いや、自宅での看護、あらゆる機関との連絡窓口など、時間や労力の多くを取られる。

介護費用は親自身の年金や貯蓄などで対応するケースが多いものの、介護をするうちに底をつき子どもが負担することもある。

 

『就業構造基本調査』(総務省)によると、介護・看護により離職した人は、年間10万人前後。比率的には、女性7割・男性3割だ。

 

50代前半のサラリーマンなら、給与は平均月45.4万円、手取り33万円程度。

推定年収は692万円で、会社員人生でピークとなる(厚生労働省『令和3年賃金構造基本統計調査』)。

同時に、50代は老後のための貯蓄を行う最後のチャンスだ。ここでひと頑張りできなければ、老後の不安は募る一方となる。

 

 

だが、そのタイミングで「親の認知症介護」がのしかかってきたら…。状態が悪化し、退職を余儀なくされたら…。

 

認知症の介護年数は平均で6〜7年といわれているが(公益社団法人認知症の人と家族の会の調査)、これはあくまでも平均値であり、それより長くなる場合も当然あるだろう。だが、そうなった場合、介護を終えてから失ったキャリアを取り戻せるのかといえば、まず不可能ではないか。

 

l大卒サラリーマンとして50歳まで平均的な年収を得ていた人が介護離職した場合、65歳からもらえる年金は、月々13万円程度となる。

65歳以上の男性の年金額17万円と比較すると、大きく下回ることになる。さしかも、貯蓄ができなかったとなれば、さらに事態は深刻だ。

親孝行の先に待っているのが、そんな苦しい生活だったら――。

 

しかし、こういった「認知症介護の問題」は、今後、ますます増えていくと予測される。

認知症患者の支援はもちろんだが、介護離職を選択せざるを得ない子世代のサポートも急務ではないか。

 

本来なら社会で存分に力を発揮できるはずの、アラフィフ世代の労働力を失うのは、日本経済にとっても大きな損失だ。その点、よくよく検討していく必要があるだろう。

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(写真は編集長の立本正樹)。

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